東京地方裁判所 昭和63年(ワ)5930号 判決
一 原告は、本件特許権(一)を有していたが、その登録は、平成二年七月一二日、平成元年五月二三日第七年分特許料不納を原因として抹消されたこと、また、原告は、本件特許権(二)を有していること、被告は、遅くとも昭和五九年ころから業として被告製品を製造販売していることは、当事者間に争いがない。
二 被告製品が、本件発明(一)の技術的範囲に属するか否かについて判断する。
1 本件明細書(一)の特許請求の範囲の項の記載が本件公報の該当項記載のとおりであることは、当事者間に争いがなく、右争いのない特許請求の範囲の項の記載と成立に争いのない甲第三号証(本件公報)によれば、本件発明(一)の構成要件は、請求の原因2(一)(1)のとおりであることが認められる。
2 前掲甲第三号証(本件公報)によれば、(一)本件発明(一)は、特にシール部材を使用しないで、しかも、自吸を確実にした自吸式ポンプに関するものである、(二)従来のポンプにおいては、ポンプのケーシング内圧と大気圧の差圧分だけシールして止めなければポンプが成り立たなかつたので、メカニカルシール及びパツキンなどのシール部材を使用することが不可欠であつたが、このようなシール部材には故障が多く、ポンプの故障のほとんどはシール部材の故障であつた、すなわち、液体を止めるために密着部が必要であり、摺動している部分に接触しながらその部分の液洩れを防止しているので、接触部は必ず摩耗するからであり、この場合、揚水液の種類によつて、シール部材を選定しなければならなかつた、(三)このような従来のポンプの不都合を解決するために、シール部材を全く使用しないポンプが開発されたが、シール部材を使用しない方法で自吸式ポンプを製作することは不可能であつた、すなわち、自吸中は、揚水羽根の方に常に空気と水を吸い上げながら排出してサクシヨン室が真空になり、渦室がシヤフト部の大気圧と連通しているので、揚水圧力が高くなると、裏羽根を通して液洩れのバランスが取れるけれども、自吸中は、揚水羽根の中心部が極度に高真空して自吸するので、逆に、裏羽根より空気が渦室に入つて真空度を壊し、自吸不能となるからである、(四)本件発明(一)は、右(二)、(三)の従来の問題点を解決するために、揚水羽根が高真空度になつても、大気を吸い込まずに自吸するようにするとともに、自吸量を確保することにより自吸を確実に行う自吸式ポンプを提供することを目的として、本件明細書(一)の特許請求の範囲のとおりの構成を採用し、これにより、所期の目的を達成したものである、以上の事実が認められる。
3 そこで、右認定の事実に基づき、被告製品が本件発明(一)の構成要件(B)、(C)、(D)及び(E)を充足するか否かについて検討する。
(一) 右認定の事実によれば、本件発明(一)は、右2(二)、(三)認定の従来の問題点を解決するために、揚水羽根が高真空度になつても、大気を吸い込まずに自吸するようにするとともに、自吸量を確保することにより自吸を確実に行う自吸式ポンプを提供することを目的として、本件明細書(一)の特許請求の範囲のとおりの構成を採用し、これにより、所期の目的を達成したものであるところ、その構成要件は、前1の認定のとおり、請求の原因2(一)(1)の(A)のほか、(B)「前記ケーシングに形成されている第1の突出部と」、(C)「この第1の突出部とは外側に内径的に対向して前記ランナーに形成されている第2の突出部と」、(D)「前記自吸室に穿設されている水圧バランサー用孔と」、(E)「前記ランナーに固定されている裏羽根とを備えていること」というものであるが、右構成の有する技術的な意味について考察するに、前掲甲第三号証(本件公報)及び成立に争いのない乙第一号証の一五によれば、本件明細書(一)の発明の詳細な説明の項には、本件発明(一)の技術内容について、実施例に即して、「ランナー8(注・構成要件(C)のランナーに該当)の突出部8a(注・同(C)の第2の突出部に該当)は、ケーシング1(注・同(B)のケーシングに該当)の突出部1b(注・同(B)の第1の突出部に該当)と接合しない状態で回転するので、これらのランナー8の突出部8aとケーシング1の突出部1bとで揚水羽根9と裏羽根10(注・同(E)の裏羽根に該当)とが隔離されている。すなわち、揚水羽根9と裏羽根10との間にあるケーシング1の突出部1bとランナー8の突出部8aの隙間には液体が流入する。この状態でランナー8が回転すると、揚水作用が働き渦室13(「12」とあるのは、「13」の誤記と認められる。)の液体はランナー8の外周を通つて裏羽根10の方に流動するが、この裏羽根10の遠心力で液体は外径方向に押し返えされてバランスがとれ液体シール状になる。また自吸時においては、シヤフト7より吸い込まれた空気は、裏羽根10の遠心力で出来た水のリングでしや断され、空気は水圧バランス孔14(注・同(D)の水圧、バランサー用孔に該当)より自吸室5(注・同(D)の自吸室に該当)へ抜ける。さらに突出部1b、8aは、空気が渦室13へ混入するのを防止している。このようにして、揚水羽根9と裏羽根とが隔離されるとシヤフト7より空気が渦室13へ流動せず水圧バランサー用孔14へ吐出されるので、揚水羽根9(「10」とあるのは、「9」の誤記と認められる。)の近傍は高真空になり自吸が確実になる。」(本件公報二頁3欄四二行ないし同頁4欄二〇行)との記載があること、本件発明の特許異議の申立てに対して、原告は、特許異議答弁書(乙第一号証の一五)を提出して、「自吸式ポンプにおいてシヤフトから空気を吸い込んでしまつて渦室へ回つてしまつては真空がえられず、自吸作用は起きない。そのために必ずシヤフトより吸い込む空気を裏羽根等で、渦室へ移動させず水圧バランス孔を通して自吸室へ抜け排気するように本件発明では突出部1b、8aを設けてある。」(同七頁四行ないし一〇行)、「この自吸室に多量の液が入つていても裏羽根10の遠心力作用でシヤフトより吸い込んだ空気はどんどん水圧バランス孔(「水圧ランス孔」とあるのは、「水圧バランス孔」の誤記と認められる。)14から突出部1b、8aによりガイドされて自吸室(「渦室」とあるのは、「自吸室」の誤記と認められる。)へ移動させるようにしている。」(同八頁一二行ないし九頁一行)と主張していること、以上の事実が認められ、右認定の事実と前2認定の事実によれば、本件発明(一)は、自吸時に、揚水羽根の中心部が極度の真空状態になつたとき、シヤフトから吸い込まれた空気が渦室に流入して右真空状態を壊し、自吸ができなくなることを防止するため、シヤフトから吸い込まれた空気が自吸室に排出されるように、自吸室に水圧バランサー用孔を穿設するとともに(構成要件(D))、ケーシングの突出部(同(B))とランナーの突出部(同(C))とを形成し、裏羽根(同(E))の遠心力作用によつて水のリングを形成して、シヤフトから吸い込まれた空気が渦室へ流入するのを遮断しながら、これを右水圧バランサー用孔に案内するという技術手段を採用したものであることが認められる。そして、前掲甲第三号証(本件公報)によれば、本件明細書(一)には、右技術手段のほかに、自吸時においてシヤフトから吸い込まれた空気が渦室に流入することを防止する技術手段があることを示唆するような記載は全く存しないことが認められる。そうすると、本件発明(一)は、ケーシングの突出部(構成要件(B))とランナーの突出部(同(C))とを形成し、裏羽根(同(E))の遠心力作用によつて水のリングを形成して、シヤフトから吸い込まれた空気を自吸室に穿設されている水圧バランサー用孔(同(D))に案内し、同孔から自吸室に排出させることによつて、自吸時に、シヤフトから吸い込まれた空気が渦室に流入することを防止するという技術的思想に立脚するものであることが認められる。
(二) これに対して、被告製品を示すものであることに争いのない別紙目録の記載及び成立に争いのない甲第六号証によれば、被告製品の取扱説明書(甲第六号証)には、「ポンプ自吸運転中は、インペラ・デイスクの回転で発生した遠心力を利用して、デイスクのまわりに水膜を形成。これで、インペラ裏側からの空気侵入を防止します。」(同号証の二頁)、自吸時の作動説明として、「インペラが回転することにより、液は渦室から吐出室へと流れ、吸込室からの空気も同様に流れます。この空気は吐出室で分離排気され、液は吐出室から下方へ流れ自吸穴より渦室へ循環されます。この時、加圧デイスクの作用により、インペラ背面からの空気の侵入は防止されています。」(同号証の四頁)との記載があること、右記載中のインペラ及びデイスクは、それぞれ別紙目録記載のランナー13及び回転盤30に該当するものであることが認められる。右認定の事実に被告製品を示すものであることに争いのない別紙目録の記載、成立に争いのない甲第七号証、被告製品であることに争いのない検乙第一号証、ユーザー説明用に一部を透明にした被告製品であることに争いのない検乙第二号証及び弁論の全趣旨によれば、被告製品は、回転盤30の回転によつて、これを取り囲むように配設された仕切板20と仕切壁6とで形成された間隙に断面コ状の高圧水膜を形成し、右高圧水膜により、自吸時に、シヤフト12部から吸い込まれた空気が渦室19に流入することを防止しているものであることが認められる。この点について、原告は、被告製品は、裏羽根15の遠心力作用によつて液体シールを形成し、これにより、空気が渦室19へ流入することを防止しているものであるから、仮に被告製品が回転盤30の回転によつてこれを取り囲むように配設された仕切板20と仕切壁6とで形成された間隙に断面コ状の高圧水膜を形成しているのであるとすれば、被告製品は、裏羽根15がなくても空気の流入が阻止されることになるので、被告製品に裏羽根15が形成されていることの説明ができない旨主張する。しかしながら、前掲甲第六号証によれば、被告製品の取扱説明書(甲第六号証)には、「また、ポンプ揚水運転中には、同じく裏羽根の遠心力で、インペラ背面に入つてくる液をシヤツトアウト。液が主軸へ、さらに軸上部に侵入しない機構になつています。」(同号証の二頁)、運転時の作動説明として、「吸込配管内の空気が排気された時点で、ポンプとして揚液を開始します。この時、インペラの背面に向かう液は裏羽根の効果により、主軸の方に向かわず液が漏洩するのを防いでいます。このように、液をメカニカルシールなどで軸封する必要がない状態で運転されます。」(同号証の四頁)との記載があることが認められ、右認定の事実に被告製品を示すものであることに争いのない別紙目録の記載、前掲甲第七号証、検乙第一号証、検乙第二号証及び弁論の全趣旨によれば、被告製品の裏羽根15は、ポンプ運転時に、渦室の圧力が高い状態になつたとき、その遠心力作用によつて、液がシヤフト12部に漏洩することを防止するものであつて、自吸時に、シヤフト12部から吸い込まれた空気が渦室19へ流入することを防止するものではないことが認められる。原告の右主張は、自吸時に、被告製品の裏羽根15がその遠心力作用によつて液体シールを形成し、これにより、空気が渦室19へ流入するのを防止していることを前提としているところ、右認定の事実によれば、原告の右主張は、その前提を欠くものであるといわざるをえないから、採用の限りではない。また、原告は、円形の回転盤30の径を同じくする水平回転によつては高圧水膜を形成するような遠心力の発生は考えられないから、被告製品の回転盤30は、遠心力作用による高圧水膜の形成に直接結びつくものではない旨主張するが、前認定のとおり、被告製品の回転盤30は、これを取り囲むように配設された仕切板20と仕切壁6と相まつて、これらとの間隙に断面コ状の高圧水膜を形成しているものであつて、回転盤30の回転による遠心力作用だけで高圧水膜を形成しているのではないから、原告の右主張も、採用することができない。
(三) 右(二)認定のとおり、被告製品は、回転盤30の回転によつて、これを取り囲むように配設された仕切板20と仕切壁6とで形成された間隙に断面コ状の高圧水膜を形成し、右高圧水膜により、自吸時に、シヤフト12部から吸い込まれた空気が渦室19に流入することを防止しているものであるから、その技術的思想は、本件発明(一)のように、ケーシングの突出部(構成要件(B))とランナーの突出部(同(C))とを形成し、裏羽根(同(E))の遠心力作用によつて水のリングを形成して、シヤフトから吸い込まれた空気を自吸室に穿設されている水圧バランサー用孔(同(D))に案内し、同孔から自吸室に排出させることによつて、自吸時に、シヤフトから吸い込まれた空気が渦室に流入することを防止するという技術的思想とは明らかに異なるものといわなければならない。そうすると、被告製品は、本件発明(一)の構成要件(B)、(C)、(D)及びこれらと協働関係に立つ同(E)を充足しないものといわざるをえない。この点について、原告は、本件発明(一)は、裏羽根の遠心力によつて高圧水膜を形成するものであり、更に、「第1の突出部」を裏羽根の対向部に形成して、右高圧水膜の形成に作用させ、これにより、シヤフトから吸い込まれた空気が渦室へ流入することを防止しているものであるところ、被告製品も、ランナー13に固定された裏羽根15の遠心力によつて液体シールを形成するものであり、そのために、裏羽根15と対向する位置に抵抗部としての段部1bを形成して、右液体シールの形成に作用させ、これにより、シヤフト12部から吸い込まれた空気が渦室19へ流入することを防止しているのであるから、この点で、被告製品の段部1bは、本件発明(一)の構成要件(B)の「第1の突出部」と全く同様の作用効果を奏する旨主張する。しかしながら、前(二)認定のとおり、被告製品の裏羽根15は、自吸時に、シヤフト12部から吸い込まれた空気が渦室19へ流入することを防止するものではないから、被告製品の段部1bが、空気が渦室19へ流入することを防止するような液体シールの形成に作用することはなく、したがつて、原告の右主張は、採用することができない。また、原告は、本件発明(一)の構成要件(C)の「第2の突出部」は、液体との摩擦による乱流を生じさせ、右乱流が空気の流入を阻止する抵抗となることによつて、空気が渦室へ流入することを防止しているものであるところ、被告製品も、回転盤30とこれを取り囲むように配設された仕切板20と仕切壁6とで形成された間隙に、回転盤30と液体との摩擦による乱流を生じさせ、右乱流が空気の流入を阻止する抵抗となることによつて、空気が渦室19へ流入することを防止しているのであるから、この点で、被告製品の回転盤30部に生じる現象は、同構成要件(C)の「第2の突出部」に生じる現象と全く同様である旨主張する。しかしながら、前(一)認定のとおり、本件発明(一)は、ケーシングの突出部(構成要件(B))とランナーの突出部(同(C))とを形成し、裏羽根(同(E))の遠心力作用によつて水のリングを形成して、シヤフトから吸い込まれた空気を自吸室に穿設されている水圧バランサー用孔(同(D))に案内し、同孔から自吸室に排出させることによつて、自吸時に、シヤフトから吸い込まれた空気が渦室に流入することを防止しているものであり、「第2の突出部」(同(C))は、「第1の突出部」(同(B))とともに、シヤフトから吸い込まれた空気を水圧バランサー用孔(同(D))に案内するという作用を有するのであるから、「第2の突出部」のみで、シヤフトから吸い込まれた空気が渦室へ流入することを防止しているものであるとは認められない。したがつて、原告の右主張も、採用の限りではない。更に、原告は、被告製品において、運転開始等通常運転状態と異なる状態における何らかのトラブルによつて空気が渦室19に流入したときには、右空気は、渦室19内において高速回転する揚水羽根4の遠心力作用により、渦室19の中心部に連続的に供給される液に混じつて気泡となり、周縁に移行して、サイホンカツト用穴22から渦室19外に速やかに排出されるものであり、この点で、本件発明(一)の構成要件(D)の「水圧バランサー用孔」と同一の機能を有しており、そして、「水圧バランサー用孔」は、揚水停止時にサイホン現象のための空気の流入孔としての機能も有しているのであるから、同構成要件(D)の「水圧バランサー用孔」と被告製品のサイホンカツト用穴22は、同一の作用効果を奏する旨主張する。しかしながら、前(一)認定のとおり、本件発明(一)は、ケーシングの突出部(構成要件(B))とランナーの突出部(同(C))とを形成し、裏羽根(同(E))の遠心力作用によつて水のリングを形成して、シヤフトから吸い込まれた空気を自吸室に穿設されている水圧バランサー用孔(同(D))に案内し、同孔から自吸室に排出させることによつて、自吸時に、シヤフトから吸い込まれた空気が渦室に流入することを防止しているものであるから、同構成要件(D)の「水圧バランサー用孔」は、シヤフトから吸い込まれた空気を自吸室に排出させる作用を有するものである。これに対して、前掲甲第六号証によれば、被告製品の取扱説明書(甲第六号証)には、停止時の作動説明として、「ポンプが停止すると、吐出側からの逆流液は吐出室から渦室、インペラ、吸込室から吸込配管へ流れます。そして、吐出側から空気が入り込み、うず巻室のサイホンカツト穴から吸込室へ戻る時点で、液の逆流は停止します。この時、ポンプ内の残留液はインペラおよび吸込室を満水状態にしており、次の自吸運転に備えます。」(同号証の四頁)との記載があることが認められ、右認定の事実に被告製品を示すものであることに争いのない別紙目録の記載、前掲甲第七号証、検乙第一号証、検乙第二号証及び弁論の全趣旨によれば、被告製品のサイホンカツト用穴22は、運転停止時に、サイホン現象によつてその位置で液の逆流を止めて自吸液を吸入室4に残すとともに、揚水羽根14を液に浸つた状態にするためのものであつて、自吸時に、シヤフト12部から吸い込まれた空気が渦室19へ流入することを防止したり、また、シヤフト12部から渦室19に吸い込まれた空気を渦室19外に排出したりするものではないことが認められる。したがつて、被告製品のサイホンカツト用穴22は、同構成要件(D)の「水圧バランサー用孔」と同一の機能を有しないものであるから、原告の右主張も、採用するに由ないものといわなければならない。
4 以上によれば、被告製品は、本件発明(一)の技術的範囲に属しないものというべきである。
三 被告製品が、本件発明(二)の技術的範囲に属するか否かについて判断する。
1 本件明細書(二)の特許請求の範囲の項の記載が本件補正公報の該当項記載のとおりであることは、当事者間に争いがなく、右争いのない特許請求の範囲の項の記載と成立に争いのない甲第五号証(本件補正公報)によれば、本件発明(二)の構成要件は、請求の原因2(二)(1)のとおりであることが認められる。
2 前掲甲第五号証(本件補正公報)によれば、(一)本件発明(二)は、特に、揚水の自吸を連続ならしめた竪型揚水の自吸式ポンプに関するものである、(二)従来の竪型揚水ポンプは、パツキングを使用しないものが多用されているが、この従来のポンプは、インペラー部の羽根の下面に揚液用弧状羽根板を設け、羽根主体の外周に渦巻室と渦巻室中で羽根主体の外周部に微間隙を離して被る被覆体と、羽根主体の上面に弧状羽根板よりやや長形の裏羽根を配し、被覆体から続く上壁板と裏羽根板との間にも微間隙を設け、上壁板上に溜水部を備えてなる竪型液封ポンプであり、その特徴は、裏羽根の作用によつて、上部溜水部の液を裏羽根部と微間隙から逐次渦室へ送り出す際に、渦室内の液圧に対して裏羽根による溜水部からの送り出し液圧が勝つて両者のバランスが取れた位置に液輪ができるように構成されているので、溜水部に洩れずノウパツキングの液輪ができるところにあるので、回転主軸部に一切のパツキングを使用せずに液封効果を得ることができるけれども、これは、あくまでも液封を目的とするものであるから、吸込部に大きな抵抗がかかると、軸部から空気が入つて揚水が不可能となり、また、サクシヨン部に負圧がかかると、液輪が崩れて空気が渦室へ入つて揚水ができなくなり、更に、吸込部に逆止弁が必要となるなどの欠点があつた、(三)本件発明(二)は、右(二)の従来の問題点を解決するために、本件明細書(二)の特許請求の範囲のとおりの構成を採用し、これにより、所期の目的を達成したものであり、その特徴は、軸部から吸い込まれた空気を自吸室へ排出させて、直接渦室に行かないようにしたことと、サイホン現象により、逆流揚水をサイホンカツトして自吸室に貯溜するようにしたことにある、以上の事実が認められる。
3 そこで、右認定の事実に基づき、被告製品が本件発明(二)の構成要件(B)を充足するか否かについて検討する。
(一) 右認定の事実によれば、本件発明(二)は、右2(二)認定の従来の問題点を解決するために、本件明細書(二)の特許請求の範囲のとおりの構成を採用し、これにより、所期の目的を達成したものであつて、その特徴は、軸部から吸い込まれた空気を自吸室へ排出させて、直接渦室に行かないようにしたことと、サイホン現象により、逆流揚水をサイホンカツトして自吸室に貯溜するようにしたことにあるところ、その構成要件は、前1認定のとおり、請求の原因2(二)(1)の(A)、(C)及び(D)のほか、(B)「前記裏羽根外周部の仕切板部に自吸室と連通させて水圧バランサー用孔を形成し、該水圧バランサー用孔を介してシヤフト部から吸引される空気を自吸室に排出させ」というものであるが、右構成の有する技術的な意味について考察するに、前掲甲第五号証(本件補正公報)によれば、本件明細書(二)の発明の詳細な説明の項には、本件発明(二)の技術手段について、「本発明の問題点を解決するための手段は、<1>自吸中、軸部から吸い込まれた空気が直接渦室に吸い込まれないようにするために、裏羽根外周部の仕切板部に自吸室と連通された水圧バランサー用孔を設けたこと、………にある。このように構成することによつて、まず自吸中は常時羽根車に供給されている液(水)は、遠心力によつて吸引部から吸い込まれた空気と共に羽根車の外側に移動すると共に、羽根車の中心部が負圧になり吸引部が真空保持される。このような遠心力と真空保持の作用によつて、配管内の真空が排気されると共に液(水)が吸引されて自吸作用が開始され、更に渦室内の液(水)が羽根車の外周を通つて裏羽根の方に移動しようとするが、裏羽根の方の圧力が高いために押し返されてしまう。この結果、液(水)や軸部の方には流れ込むことはないが逆に軸部から空気が吸い込まれることになる。この軸部からの吸い込み空気が、渦室に吸い込まれないようにするために水圧、バランサー用孔を設けたのである。」(本件補正公報訂三頁二行ないし一二行)と記載され、また、実施例に即して、「前記ケーシング1の上蓋1aに設けた水圧バランサー用孔4は、軸部から吸引され空気を自吸室へ排出させ、直接渦室19に吸い込まれないようにするために設けた空気排出孔である。したがつて、この水圧バランサー用孔4、4は、裏羽根15の外周部分の位置となる仕切板20に穿設することが条件となる。」(同頁二九行ないし三二行)、「ケーシング1内に呼水した状態で駆動モータ10を駆動すれば、………ランナー13に固定されている裏羽根15の径が揚水羽根14の径よりも長く形成されているので、裏羽根15は揚水羽根14より高圧を発生してシヤフト12より空気が流入してくる。この空気は、裏羽根15の遠心力でできた水のリングで遮断され、空気は水圧バランサー用孔4、4より自吸室に排出されて渦室19へ混入しない。」(同頁三七行ないし四三行)、「このように、渦室19の圧力が高くなつて定常の揚水運転が行われている間は、水圧バランサー用孔4の有無にかかわらず液封という目的は達成されるが、自吸時若しくは運転中において裏羽根と仕切板間に水のリング(液輪)が生じた場合に、水圧バランサー用孔4が無いと空気も一緒に渦室19へ流れ込み、自吸も揚水運転も停止してしまうことになる。」(同訂七頁一〇行ないし一三行)と記載されていることが認められ、右認定の発明の詳細な説明の項の記載と前2認定の事実によれば、本件発明(二)は、自吸時に、揚水羽根の中心部が極度の真空状態になつたとき、シヤフトから吸い込まれた空気が渦室に流入して右真空状態を壊し、自吸ができなくなることを防止するため、シヤフトから吸い込まれた空気が自吸室に排出されるように、自吸室に連通する水圧バランサー用孔を形成するという技術手段(構成要件(B))を採用したものであることが認められる。そして、前掲甲第五号証(本件補正公報)によれば、本件明細書(二)には、右技術手段のほかに、自吸時においてシヤフトから吸い込まれた空気が渦室に流入するのを防止する技術手段があることを示唆するような記載は全く存しないことが認められる。そうすると、本件発明(二)は、自吸室に連通する水圧バランサー用孔を形成して、シヤフトから吸い込まれた空気を同孔から自吸室に排出させることによつて、自吸時に、シヤフトから吸い込まれた空気が渦室に流入することを防止するという技術的思想に立脚するものであつて、本件発明(二)の構成要件(B)は、そのための構成にほかならないものと認められる。
(二) これに対して、被告製品は、前二3(二)のとおり、回転盤30の回転によつて、これを取り囲むように配設された仕切板20と仕切壁6とで形成された間隙に断面コ状の高圧水膜を形成し、右高圧水膜により、自吸時に、シヤフト12部から吸い込まれた空気が渦室19に流入することを防止しているものであるから、その技術的思想は、本件発明(二)のように、自吸室に連通する水圧バランサー用孔を形成して、シヤフトから吸い込まれた空気を同孔から自吸室に排出させることによつて、自吸時に、シヤフトから吸い込まれた空気が渦室に流入することを防止するという技術的思想とは明らかに異なるものといわなければならない。そうすると、被告製品は、本件発明(二)の構成要件(B)を充足しないものといわざるをえない。この点について、原告は、被告製品において、運転開始等通常運転状態と異なる状態における何らかのトラブルによつて空気が渦室19に流入したときには、右空気は、渦室19内において高速回転する揚水羽根4の遠心力により、渦室19の中心部に連続的に供給される液に混じつて気泡となり、周縁に移行して、サイホンカツト用穴22から渦室19外に速やかに排出されるものであり、この点で、本件発明(二)の構成要件(B)の「水圧バランサー用孔」と同一の機能を有しており、そして、「水圧バランサー用孔」は、揚水停止時にサイホン現象のための空気の流入孔としての機能も有しているのであるから、同構成要件(B)の「水圧バランサー用孔」と被告製品のサイホンカツト用穴22は、同一の作用効果を奏する旨主張する。しかしながら、前(一)認定のとおり、本件発明(二)は、自吸室に連通する水圧バランサー用孔を形成して、シヤフトから吸い込まれた空気を同孔から自吸室に排出させることによつて、自吸時に、シヤフトから吸い込まれた空気が渦室に流入することを防止しているものであるから、同構成要件(B)の「水圧バランサー用孔」は、同構成要件にいうように、シヤフトから吸い込まれた空気を自吸室に排出させる作用を有するものである。これに対して、被告製品のサイホンカツト用穴22は、前二3(三)のとおり、運転停止時に、サイホン現象によつてその位置で液の逆流を止めて自吸液を吸入室4に残すとともに、揚水羽根14を液に浸つた状態にするためのものであつて、自吸時に、シヤフト12部から吸い込まれた空気が渦室19へ流入することを防止したり、また、シヤフト12部から渦室19に吸い込まれた空気を渦室19外に排出したりするものではない。したがつて、被告製品のサイホンカツト用穴22は、同構成要件(B)の「水圧バランサー用孔」と同一の機能を有しないものであるから、原告の右主張は、採用の限りではない。
4 以上によれば、被告製品は、本件発明(二)の技術的範囲に属しないものというべきである。
四 よつて、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから、これを棄却する。
〔編注1〕本件発明の構成要件は左のとおりである。
(A) 吸入口及び吐出口が形成されているとともに、中心部にパイプが連設されている適宜形状のケーシングと、前記吸入口に連設されているサクシヨン室と、前記吐出口に連設されている自吸室と、前記ケーシングに固定されている駆動機構と、この駆動機構のシヤフトに固定されているランナーとを有する自吸式ポンプにおいて、
(B) 前記ケーシングに形成されている第1の突出部と、
(C) この第1の突出部とは外側に内径的に対向して前記ランナーに形成されている第2の突出部と、
(D) 前記自吸室に穿設されている水圧バランサー用孔と、
(E) 前記ランナーに固定されている裏羽根とを備えていること
(F) を特徴とする自吸式ポンプ。
〔編注3〕本件発明(一)の特許請求の範囲は左のとおりである。
吸入口および吐出口が形成されているとともに中心部にパイプが連設されている適宜形状のケーシングと、前記吸入口に連設されているサクシヨン室と、前記吐出口に連設されている自吸室と前記ケーシングに固定されている駆動機構と、この駆動機構のシヤフトに固定されているランナーとを有する自吸式ポンプにおいて、前記ケーシングに形成されている第1の突出部と、この第1の突出部とは外側に内径的に対向して前記ランナーに形成されている第2の突出部と、前記自吸室に穿設されている水圧バランサー用孔と、前記ランナーに固定されている裏羽根とを備えていることを特徴とする自吸式ポンプ。
〔編注4〕本件発明(二)の特許請求の範囲は左のとおりである。
駆動機構に連結されているシヤフトと、このシヤフトの下端に固定されているランナーと、このランナーに固定されている適宜の径で形成されている揚水羽根と、この揚水羽根の径よりも長い径で形成されかつ前記ランナーに固定されている裏羽根と、吸水口および吐水口が形成されているとともに中心部にパイプが連設されかつ前記駆動機構が固定されているケーシングと、このケーシングと前記パイプとに連設し水平方向に形成されている仕切板と、前記ケーシングに形成されているサクシヨン部とを有する堅型揚水ポンプにおいて、前記裏羽根外周部の仕切板部に自吸室と連通させて水圧バランサー用孔を形成し、該水圧バランサー用孔を介してシヤフト部から吸引される空気を自吸室に排出させ、更に前記サクシヨン部にサイホンカツト部を設け、該サイホンカツト部を介してサイホン現象により逆流する揚水を自吸室に貯溜させることを特徴とする自吸式ポンプ。
〔編注2〕本件における目録は左のとおりである。
一 名称
自吸式ポンプ
二 図面の簡単な説明
第1図 概略構成説明図
第2図 呼水投入時の説明図
第3図 自吸時の説明図
第4図 運転時の説明図
第5図 停止時の説明図
三 構造の説明
駆動機構10に連結されているシヤフト12と、このシヤフト12の下端に固定されているランナー13と、このランナー13に固定されている適宜の径で形成されている揚水羽根14と、この揚水羽根14の径より長い径で形成され、かつ、前記ランナー13に固定されている裏羽根15及び両羽根間に突出させられた回転盤30と、吸入口2に連設されている吸入室4及び吐出口3に連設されている吐出室5が形成されているとともに、中心部にパイプ1aが連設され、かつ、前記駆動機構10が固定されているケーシング1と、前記パイプ1aに連設し水平方向に形成されている仕切板20と、該仕切板20部であつて前記裏羽根15の先端位置に形成された段部1bと、前記仕切板20から前記ランナー13の周縁部下方に設けられた仕切壁6と、渦室19の外周に吸入室と連通させて設けたサイホンカツト用穴22からなる。
<省略>
(他の図面は省略)